【書評】「すごい和食」小泉武夫
2013年、ユネスコ無形文化遺産に和食が登録され、改めて和食の良さが見直されています。
しかし、和食というのはあまりにも身近な存在のため、その良さが本当に理解されているとは言いがたい状態です。
あなたは、和食の魅力を海外の人に説明できるでしょうか。
そんな和食の良さがサクッと理解できてしまうのが、今回ご紹介するこの一冊。
著者の小泉さんは農学博士で、世界中を訪れてその土地の珍味や奇食を味わってきた方で、まさに世界中の食を知り尽くした上で和食の良さを語っています。
それでは紹介していきましょう。
「すごい和食」
和食は世界のどの地域の食文化とも違う唯一の食文化
それに対して、完全な粒食文化を持つ民族は日本人だけである。
(本書 P.16)
知れば知るほど、和食は世界のどことも似ていない、なんて独自性に溢れた食文化なんだと驚嘆します。
日本人の主食、米。
確かに韓国や中国、他のアジアの国でも米は食べられています。
しかし、韓国のお酒「マッコリ」は粉の麹で作るのに、対し、日本のお酒である日本酒は米粒に麹をつけた散麹(ばらこうじ)を使います。
また、中国には饅頭(マントウ)や麺の文化があり、これらは小麦をひいて作るので、粉食です。インドはナン。
さらに日本で食べられているジャポニカ米は日本でしか食されておらず、東南アジアや韓国、中国はインディアカ米です。
この粘り気のあるジャポニカ米だからこそ、お鮨やおむすびが作られるようになったのです。
さらには海に囲まれていたことから塩が豊富にとれたことや、湿度が高くてカビが繁殖しやすい気候なので、漬け物や醤油、味噌などの調味料が発達しました。
日本ほど発酵食品が多様な国はありません。
鰹節、醤油、味噌、日本酒、味醂、甘酒。これらの製造に必要な麹菌は日本でしか生きることができないのです。
【 参考 】麹菌の働きとは?日本食は麹によって支えられていた
日本人は長年かけて培った和食を捨ててしまった
私は「食と民族」を主なテーマにして、世界中の食を見てきた。けれども、この日本ほど急激に食生活が変わった国を見たことがない。
(本書 P. 94)
世界中の国や地域には、その土地の気候、風土にあったものが食文化として発展をしてきています。
前述のように、日本食が今のように発達したのには、日本独特の地理的な条件が大きく影響していたのです。
そして不思議なことに、その土地の食文化というのは、その土地に住む人間にとって最適化されています。
というか、その食事に合うように長年かけて人間の方が変化・適応してきました。
それを急に変えるとどうなるでしょう。
近年、日本は長寿の国と言われる一方で増え続ける生活習慣病と医療費に頭を悩まされ、多くの人が今も苦しんでいます。
その大きな要因となっているのが、急激な食の欧米化です。
この本の中では沖縄の例があげられ、米軍が入ってきて非常に短い期間で食事が欧米風に変わり、かつては長寿の県と言われた沖縄が一気に不健康な地域になってしまったことが紹介されています。
一方、鹿児島県に属する奄美大島は、現在でも昭和三十六年ごろの食生活を守り続け、世界一の長寿エリアとして君臨しています。
論理が飛躍しますが、食文化だけが欧米化したのではなく、戦後の盲目的なアメリカ礼賛により、日本人は大切なものをたくさん失ってきたんだと思います。
明治維新が起き、開国した頃の日本人は欧米の近代文明を受け入れながらも、日本が独自に培ってきた文化とうまく融合させていました。
外来語でさえ、安易に横文字にするのではなく、漢字を組み合わせて新しい言葉を作っていたのです。
最近、落語にハマっているのですが、落語に魅了された一つの理由が”日本語の美しさ“です。
食文化だけでなく、日本人はもっと先人たちが築き上げてきたかけがえのない日本文化を見直すタイミングにいるのだと思います。
文化的だけでなく、健康的にも優れている和食
一見、豊かになったような日本人の食生活だが、一方で、かつてはなかった生活習慣病やアトピーやアレルギーといった問題が噴出している。
(本書 P.34)
和食の素晴らしいところは、それが文化的に特徴的で発展をしているというだけでなく、栄養学的に見ても健康的だというところです。
長い間、日本人はほとんど肉を食べてきていませんでした。
魚すらもそれほど多く食べていたわけではなく、たんぱく質は植物性たんぱく質の大豆で補ってきたのです。たんぱく質はとりながらも低脂質。
野菜、海藻、それらを組み合わせることでビタミンやミネラルも補ってきました。
さらには発酵という過程を減ることによって、美味しさだけでなく、栄養面も向上させることに成功。
発酵食品とともに乳酸菌をはじめとする有用成分をとりいれることで、腸内環境を良好に保つことができます。
しかし、悲しいことにこういった食の状況も大きく様変わりし、大豆や魚介類、海藻があまり食べられなくなったり、野菜中のミネラルは減少、発酵食品も伝統的な製法でない、まがいものが多く出回るようになってしまいました。
和食を食べて健康を維持するためには、表面的なワショクではなく、本質的なものを見極める知識と行動が必要です。
まとめ
和食の素晴らしさを知れば知るほど、日々の生活の中でも和食をとりいれようという気持ちになります。
入り口は文化的な魅力でも、栄養学的な魅力でも、どちらでも良いと思います。和食はどちらも優れています。
食はその民族の精神性や価値観につながる。
本書にはこの記事で紹介しきれなかった和食の魅力がたくさん詰まっています。
興味のある方はぜひご一読を。
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