書評『だから、僕は農家をスターにする』高橋博之
「農家の担い手がいなくて困っている」
そんなニュース、誰もが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
実際、農家(漁師も)は高齢化が進んでおり、跡取りがいないというケースも珍しくありません。
そんな先細りが心配されている農家や漁師を支援する事業(ボランティアではない)をしている高橋さんが書いた本がこちら。
とてもいい本で、高橋さんの想いや、事業を行っていく中で起こった出来事に胸を揺さぶられました。
それでは、紹介していきましょう。
だから、僕は農家をスターにする
高橋さんの想い
高橋さんは”食べ物つきの情報誌”「東北食べる通信」というサービスを立ち上げました。
よく、生産者から直接食材を買うことのできるサービスについてくる、生産者さんの想いや商品についての解説の紙がありますが、このサービスはそれを逆にしています。
つまりは情報誌が主で、食べ物がおまけ。
このサービスによって、想いをもって農業や漁業をしている人の深くにまで触れることができます。
高橋さんはTEDで講演されている様子がありますので、ぜひこちらをご覧いただくと、彼の熱い想いが伝わってくるはずです。
食べ物に対しての効率化が行き過ぎた
工場生産ばかりが進んでいくのは、食べものを「モノ」として突き詰めていくことになり危険だ。
(本書 第2章より)
食べものはスーパーで買う時代になって久しいです。
最近は「魚が切り身で泳いでいる」と話す小学生がいる(知り合いの小学校の栄養士に聞いたところ、本当にいるとのこと)というぐらい、食べものがどこで誰によってどうやって作られているのかが見えにくい時代です。
生産者と消費者の関係が完全に分断され、どんどんどんどん遠くなり、それがあまりに行き過ぎてしまいました。
その結果、消費者が求めるようになったものは利便性。
カンタン、安い、オイシイ、手軽、便利。
食べものをただの「モノ」として捉える感覚です。
それと引き換えに僕たちが失ったものは何でしょう。
それらを可能にするために裏でどんなことが行われているのでしょう。
驚くべき勢いで減っていく農家たち
私が生まれる少し前の1970年には、農家は約1025万人もいた。それが年間約10万人の離農が続き、今約239万人に激減した。そのうち実に全体の75%が60歳以上の高齢者で、40歳未満の若い農家はたったの約17万人で12%しかいない。
(本書 第2章より)
なぜこれだけ農家が減っているのか。
それは農業というのが大変な仕事で、それに見合うだけの収入が得られないからです。
農業は人間が生きていく上でなくてはならない食べものを作る、この上ないほど尊い仕事なのですが、それが妥当な評価を受けられず、報われていないのが現状です。
もちろんお金がすべてではありませんが、仕事を選択する上で収入を得るというのは当然考えるべきことで、とても大事なことです。
これは栄養士にも当てはまることです。
栄養士は食と健康のプロフェッショナル。これだけ医療費が上がり、メタボの人が増え、問題が山積されている世の中にあっては、もっと求められてしかるべき仕事のはずです。
ところが、それが職場によっては調理師同然の仕事しかできなかったり、普通に企業に勤めている人よりも少ない収入で働かされていたりします。
高橋さんは農家をスターにするとおっしゃっていますが、僕は栄養士をもっともっと輝く、憧れられる職業にしたいと思っています。
まとめ
なぜなら、「べき論」を振りかざしても、消費者は財布のヒモを緩めてくれないからである。だから、いかにこのサービスが楽しい世界を生み出すかを表現することに力を注いだ。
(本書 第5章より)
予防医療もまったく同じで、「病気になる前に予防すべき。だから食育は大事だよ」と話したところで、みんな賛成するだけで実際に行動に移す人は少ないのです。
そのためには食育の活動そのものを行うだけでなく、食や健康に対する考え方をシフトさせていく必要があると思っています。
当然、そこにも楽しさが必要です。
また、自分の中で食育や予防医療の進め方についてヒントをもらえた一冊でした。
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