タニタ栄養士の「生クリームは食べるプラスチック」発言からの炎上騒ぎについて物申す
こんにちは。管理栄養士の圓尾です。
先日、タニタの子会社、タニタヘルスリンクの公式Twitterアカウントが「生クリームは食べるプラスチック」という社内栄養士の発言をツイートし、
それに対して「健康を推進する企業がそんな科学的根拠のない発言をする栄養士を雇っているのか」「トンデモ栄養士だ」などと批判が相次ぐ、いわゆる炎上が起きました。
タニタヘルスリンクアカウントは当該ツイートを削除、謝罪を表明するという騒ぎになりました。
僕は当初「アホらしヽ(´ー`)ノ」と一笑に付していたのですが、この事案について解説する記事をいくつか目にし、中には「トランス脂肪酸はそれほど危険ではない」という旨の文章も散見され、「こらあかんわ」と思い、筆を取った次第です。
僕なりに今回の問題ツイートの内容を解説し、問題の本質に迫りたいと思います。
そもそも、「生クリーム」とは何か
まず取り上げたいのが、「生クリーム」という名称についてですが、いわゆる”クリーム”には大きく三つの種類があります。
一つが「生クリーム」で、これは生乳のみを使用し、乳脂肪分が18%以上のもののみを指します。
つまり、「生クリーム」は食品添加物も無添加です。
(参考までに。こういうのです)
この生クリームは動物性由来の脂肪が100%ですが、この一部を植物性油脂に置き換えたものが「コンパウンドクリーム」です。
コンパウンドクリームを見分けるポイントは、原材料表示を見ること。
原材料に「植物油脂」とあれば、それはコンパウンドクリームです。
さらに、100%植物性油脂を使用したものが、「純植物性脂肪乳主原」。
コーヒーに入れるフレッシュなんかに多いです。
ただし、コーヒー用のフレッシュでも乳製品原材料を含むものや、最近ではトランス脂肪酸量をゼロにした製品もあります。
もちろん食品添加物は入っていますが、それでもこういう企業努力は素晴らしいことです。
それぞれのトランス脂肪酸量は?
さて、それでは次に、それぞれに含まれるトランス脂肪酸量を見ていきましょう。
まず、生クリームですが、100g当たり1.0〜1.2g(参考:「食品中のトランス脂肪酸量」農林水産省 以下同じ。).
一方、一部が植物油脂に置き換わったコンパウンドクリームでは、9.0〜12gと生クリームに比べて格段に多いことがわかります。
生クリームは食べて安全?
結論から言うと、質の悪そうな安いものを食べ過ぎなければという条件つきですが、そんなに気にしなくていいんじゃないの?と思います。
トランス脂肪酸の危険性については以前詳しく書いたこちらの記事をご覧いただきたいのですが、ざっくり言うと、トランス脂肪酸は1日当たり2gぐらいまでに抑えるのが良いとされています。
たとえば、こちらのような一般的なショートケーキの場合、ホールで使用する生クリームは200cc(大体のちゃんとしたケーキ屋さんのケーキは植物油脂ではなく、生クリームを使っています).
ざっくり計算すると、生クリーム由来のトランス脂肪酸量は全体で2gなので、一切れを食べるぐらいならそんなに多くありません。
ただ、もちろん何事も過ぎたるは及ばざるが如しで、生クリームが入ったものをバクバク食べるとトランス脂肪酸の摂取量は多くなるでしょう(というか、それ以前に糖質も脂質もとり過ぎ笑)。
また、ケーキに限らずクリームは使われていますが、植物油脂は動物油脂に比べて安価なため、低コストで作られた安いものは警戒した方がいいでしょう。
問題の本質は何か
さて、ここから今回の騒動についての本題に入りたいと思います。
生クリームは食べるプラスチック?
問題のツイートの内容ですが、まず、この栄養士は生クリームとコンパウンドクリームのような植物油脂が入ったものに含まれるトランス脂肪酸量の違いを認識していない可能性があります。
さきほど紹介したように、生クリームと、いわゆるホイップクリームではトランス脂肪酸の量に大きな差があります。
次に、「食べるプラスチック」という表現ですが、僕もこれは過激すぎるように思います。
ただ、ここが大事なのですが、
どうやらこのツイートは、
タニタヘルスリンクの社内栄養士の発言を公式アカウントがつぶやいたもの
らしいのです。
これはトランス脂肪酸の害を認識している身として、思わず熱が入って過激な表現をしてしまった気持ちが理解できます。
僕も「トランス脂肪酸は人によっては『食べるプラスチック』や『狂った油』なんて表現されるんですよ〜」と日常会話レベルでなら話すことがあります。
社内の栄養士がどういう状況で発言したのかまではわかりかねますが、仮にこれが日常会話レベルの発言であれば、何も問題ないのではないでしょうか。
もっと言うと、この栄養士は生クリームとホイップクリームの違いを認識した上で、わかりやすい表現として生クリームという言葉を使った可能性すらあるのです。
問題はSNSの使い方
では今回の問題の根っこはどこか。
それは、「食べるプラスチック」発言をした栄養士ではなく、企業のTwitter運営方法にあります。
タニタといえば、「タニタ食堂」が一躍有名になり、「タニタ」という企業名を聞いただけですぐに「健康」を連想するようなブランドになりました。
その企業アカウントがどういう形にしろ「生クリームは食べるプラスチック」というツイートをしてしまうと、生クリーム業界に関わる人々から反感を買うのは火を見るより明らかです。
健康産業に関わる大企業の公式アカウントが、社内栄養士の他愛のない発言を公につぶやいてしまったことだけが問題なのです。
つまり、今回の事案は昨今よくある企業がSNSの使い方を間違っちゃったという一件に過ぎず、それ以上でもそれ以下でもありません。
当該発言をした栄養士にまったく非はありません。
トランス脂肪酸が有害であることは変わりないぞ、と
僕が今回の一件で恐ろしく思ったのは、このどさくさの中で「トランス脂肪酸が有害である」という事実までもが”トンデモ”扱いをされている側面があることです。
くどいようですが、こちらの記事で説明したように、トランス脂肪酸は完全にクロです。
そして、日本のトランス脂肪酸への対応は先進国とは思えないほど、明らかに諸外国に遅れを取っています。
日本もこれから諸外国並みにトランス脂肪酸への規制を強化していかなければならない時に、「トランス脂肪酸はエセ科学でトンデモ栄養学だ」などというイメージが広がることが恐ろしいのです。
それがこの長〜い記事を書いた理由です。
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米 誰もが知っているトランス脂肪酸について改めて調べてみたらビックリした。