「食と健康の一億年史」 スティーブン・レ【書評】
こんにちは。
管理栄養士の圓尾(まるお)です。
久しぶりに書評を書いてみます。
僕は割りと本を読むほうだと思うのですが、その中でも書評を書くのは特に良かったもの、人にオススメしたいものに限っています。なので、今回の本も例に漏れず、超おもしろかったのでオススメです。
今回ご紹介する本がこちら。
カナダ人で生物学教授のスティーブンさんが書かれた本の訳本です。
この本のテーマは、
現代の多くの健康問題(肥満、糖尿病、痛風、高血圧、乳がん、食物アレルギーなど)は、我々の祖先が守ってきた生活習慣を変えたことや、取り巻く環境の変化によって引き起こされているのではないか、
という疑問を解き明かすというものです。
おもしろいのが、最新の健康や栄養に関する研究にもとづいていることに加えて、進化生物学、つまり”人類の進化の歴史”という視点が盛り込まれていること。
現代の科学的な研究も重要ですが、それはまだ発展途上で日進月歩の状態。
それから比べると何百万年とある人類が歩んできた歴史は確かで、そこから読み解けることも多くあります。
著者は世界中のいろんな地を実際に訪れ、その地域の食文化や人々の生活習慣などを調査しているところも特筆すべき点です。日本の沖縄についても書かれています。
僕の中では、自分の健康的な食事に対する考えにより自信が持てたのと、新しい発見もあり大変楽しい読書でした。
さあ、それでは紹介していきましょう。
「食と健康の一億年史」 スティーブン・レ【書評】
日本人は日本の伝統食を見直すことで健康になれる
僕はいつも、日本の伝統食の良さを現代に活かす食事法を伝えていますが、この本でも伝統食の良さが何度も出てきました。
たとえば、次のような箇所です。
栄養をバランスよく摂るためには伝統食を食べるべきで、それも長い歴史をもつものほどよい(たとえば五百年前から食べ続けられているもの)。伝統食は、試行錯誤を繰り返しながら慎重に作り上げられたものだからだ。
(P. 271)
特に日本の場合は、他の地域に類を見ない食生活を長い歴史の中で受け継いできました。
それが崩れたのが先の戦争以降で、その後の健康問題の噴出はみんなが知るところです。
さらに、
あなたの祖先がでんぷんや乳製品を大量に摂っていなかったなら、あなたも摂るべきではない。祖先が食べていたものを食べる。それだけはぜひ覚えておいてほしい。
(P. 317)
昔の日本の庶民はでんぷんを大量にとり、乳製品は口にしていませんでした。
つまり、日本人にとって祖先の食べていたものを食べるとは、主食であるお米を中心とした穀物をしっかり食べることなのです。
逆に、乳製品に対しては慎重にならなければなりません。
なにせ日本では牛肉を食べることと付随してその乳を飲むことも根付かず、これだけ乳製品が広まったのも戦後になってからだからです。
僕はいろんな場面で日本人がどんなものを食べてきたのかをお話することもありますが、ほとんどの方は「へえ〜、そうだったんだ」と驚きの声を上げられます。
健康的な食事について知ろうと思ったら、科学的な栄養学や最新の研究を勉強することも大事ですが、その前段階の基礎として、まず自分たちの祖先の食生活について知ることが必要です。
短期的な健康と長期的な健康は違う
僕はいつも思うのですが、一口に栄養士といっても誰を対象とするのか、どんな結果を望むのかによって必要な知識が異なるので、大学の学部を三年生ぐらいから分けたほうがいいのではないでしょうか(すでにそういう学校もあるのかもしれませんが)。
それぐらい、どんな結果を得たいのかという目的によって答えとなる食事は変わってきます。
人の身長を伸ばし、重量挙げ選手を強くし、女性の生殖力を高める食事はある意味健康的だが、概して人の寿命を延ばす食事ではない。
(P. 10)
分かりやすいのがスポーツ栄養で、スポーツの世界で結果を出す、身体を大きくするための食事というのは、健康的な食事とイコールではない場合があります。
この本の中では、若いときに肉を多く食べるリスクについて書かれています。
肉をたっぷり食べることによって、少女たちはより低年齢で性的に成熟しやすくなり、つまりはより早く寿命を迎えることにもなる。(中略)つまり、若い時の強健さは長寿を犠牲にすることの上に成り立っている。
(P. 92)
たんぱく質をとりすぎること(その中でも特に肉からとること)が寿命を縮める結果になる。
興味深いことに、世界の長寿地域には高炭水化物、低たんぱく質食のところが多くあります。
特に日本人の場合は最近まで肉をほとんど食べておらず、その分大豆を多く食べていました。
たんぱく質をしっかりとるために肉を食べよう!というなんとなく持っている間違ったイメージを捨て去る時が来ています。
現代人と祖先の大きな違い
さて、ここが僕がこの本を読んでいて一番おもしろかったところをご紹介します。
突然ですが、質問です。
祖先に太っている人はいなかったのに、なぜ現代人はこんなに肥満の人が増えたのでしょうか?
予想できる答えが二つあります。
一つは、「食べ過ぎ」、つまりはカロリー過多。
もう一つは、「運動不足」、つまり消費カロリーの減少。
僕もそう思っていました。
それが、信じられないことに、そうではなかったのです。
どういうことでしょうか。
現代人は食べ過ぎなのではない。食べ続けすぎなのだ。
最初に注釈を加えておくと、祖先の生活を正確に知ることはできないため、この本の中ではオーストラリア北部で暮らすアンバラ族やベネズエラの熱帯雨林に住むヒウィ族など、現代に残る狩猟採集社会で原始的な暮らしをしている部族の暮らしぶりを祖先の暮らしとして現代と比較しています。
そのことをふまえた上でまず、一日のカロリー摂取量(kcal)を見てみると、
日本人男性 | 2300 |
日本人女性 | 1800 |
アメリカ人男性 | 2600 |
アメリカ人女性 | 1900 |
アンバラ族 | 1600〜2500 |
ヒウィ族 | 1400〜2400 |
と、このように場合によっては狩猟採集民族のほうが摂取量カロリーが多いという結果が得られたのです。
アンバラ族とヒウィ族のエネルギー摂取量に幅があるのは、彼らのエネルギー摂取量は季節によってものすごく変動が大きかったことを表しています。
まず、ここが大きな違いです。
文明化された社会では一年365日を通して摂取カロリーは大きく変わりませんが、狩猟採集社会では乾季や雨季などがあるため、一年の中でたくさん食べられる時期とそうでない時期に大きな差があったのです。
つまり、祖先たちは飢えと飽食の両方を行き来する生活をしていたということ。
現代人の問題はカロリー摂取量が多いことではなく、常に飽食の状態こそが問題だという可能性があります。
ちなみに、この本には断食についての考察も書かれています。
常に飽食の現代にこそ、ファスティングは必要です。
僕は今回この本を読んで、改めて現代人にってファスティングが健康を守る上で必要不可欠なものであることの確信を深めました。
現代人は運動しないのではない。座り過ぎなのだ。
次に二つ目の話題。運動についてです。
これも普通に考えると昔の祖先はカロリーをたくさん消費してたから太らなくて、現代人はカロリーを消費しないから太っている、と考えがちです。
ところが、これも予想外の結果が得られています。
現代の産業化社会で暮らす太りすぎの人々のエネルギー消費量は、引き締まった身体の狩猟採集社会の人々のエネルギー消費量とほぼ変わらない。
(P. 234)
なんと、エネルギー消費量に差はなかったというのです。
ただ、一つ大きく違うことがありました。
それが、じっと座っている時間の長さです。
狩猟採集社会に暮らす人々も、我々の祖先も、何時間もじっとしていることはめったにありませんでした。
しかし現代では机があり、椅子があり、そしてテレビやパソコンがあります。
これが肥満の原因ではないかと考察されています。
これは目からウロコでした。
「じっと座っていると運動不足になるから、その分ジムで走って運動すれば解消できる」これが通用しないわけです。
いくら運動しようと、じっと座っている時間が長ければ、それは帳消しにはされず、身体に悪い影響を与える可能性があるのです。
これからはパソコンで作業しているときになるべくこまめに立ち上がったり、立ったまま本を読むようにしようと思いました。
まとめ
多くの現代人を悩ませる健康問題。
それを防ぐ手立ては、祖先の暮らしにあるのかもしれません。
ここには書ききれない、食の歴史や文化、健康にまつわる話が盛り沢山でした。
なかなか他にはない食の本だと思います。ぜひ、読んでみてください。