【書評】「学力は『食育』でつくられる。」池上公介
こんにちは。管理栄養士の圓尾(まるお)です。
「食育」という言葉があちらこちらで言われるようになって久しいです。
しかし、学校教育では食育は義務教育になっておらず、各学校によっても取り組みへの熱心さはバラバラで、
まだまだ食育がきちんと行われているとは言いがたい状況です。
これは家庭においても同様で、
子どもの健全な成長における食育の重要性を認識し、実践できている家庭がある一方で、
日々の食事や子どもが口にするものについて、実践はおろか認識すら持てていない家庭が大半だという印象です。
本屋の教育コーナーでも食育の本は圧倒的に少なかったのですが、
その中で一冊目についたのが、今回ご紹介するこの本です。
筆者は、教育の分野に五十年以上に関わり、現在は学校法人を運営されている池上公介さん。
不登校や中途退学など、いろんな子ども地域トップ校や東大、京大などへも送り出してこられ、その数は延べ一万人以上という、
まさに教育の現場で第一線をひた走ってきた方です。
その池上さんが、時代とともに変化した食環境の中で見てきた子どもたちの変化は何だったのか。
ご紹介していきましょう。
学力は「食育」でつくられる。
一、勉強の前にまず食事
よく勉強は「基礎が大事」といわれます。基礎がきちんとしていなければ、その上にいくら知識を積み上げても、結局崩れてしまいます。同様に、学習に取り組む意欲や自己を律する自制心、困難に負けずに続ける気力・体力、そうした学力を支える基盤をつくるのが毎日の食事です。それを無視したまま、どれだけ塾などで勉強をさせても思うような効果は得られません。
(本書P. 2〜3)
僕はいつもファスティングのセミナーで「食育基本法」という法律の話をするのですが、
その中にも「子どもが豊かな人間性を育み、生きる力を身につけていくためには、何よりも食育が重要である」とあります。
そして、「知育」「徳育」「体育」の基礎となるべきものだという文章もあり、食育の重要性が謳われています。
人間は食べたものでできています。
たとえば、学習というものを考えた時に、中心になるのは脳。
脳の働きが良くなければ集中することもできませんし、記憶することも、自分の考えをまとめることもできません。
学習に対する好奇心がわいてくるのも脳の働きです。
当然、脳も食べたもので作られます。
食べたものが脳になり、食べたものが脳の神経細胞がやりとりする物質を作り出すのです。
その質が悪いと、質の良い勉強などできるはずがありませんよね。
子どもにもっと勉強できるようになってもらって、成績を上げるのを手伝いたいと思ったら、
まずできることは食事を変えることなのです。
二、寮の食事は和食中心
当校の寮の食事は朝・夕ともに、永く日本の家庭で当たり前にあった、一般的な食事です。肉や魚の主菜に野菜の副菜、ごはんに味噌汁、それに海苔や納豆、漬物といった日本の伝統食が中心になっています。
(本書P. 13)
池上さんが運営されている学校の寮では、子どもたちに出す食事を和食中心にしています。
これを読んだ時、和食の良さを伝えている僕としても、とても嬉しくなりました。
これには本当に大大大賛成で、子どもの健康と成長を考えれば和食が一番です。
本の中には和食の栄養面についての記述もあるので、詳しくはそちらに譲りますが、
栄養面と、食の教育から考えても和食ほど適した食事はありません。
和食を子どもたちの食事の中心に据え、たくさんの子どもたちがそれによって成績が上がったり、心の面が改善されたりした例がたくさん紹介されています。
これを読んで、実際に現場でもその効果が証明されていることに心を強くしました。
三、子どもに人気のメニューを出すことは食育ではない
そのとき私は、親世代が「子どもに食べたいもの、好きなものだけを食べさせるのが愛情」という誤った認識をもってしまっているなら、子どもに正しい食習慣が身に付くはずもない、と妙に納得してしまいました。
(本書 P. 19〜20)
子どもが喜ぶものを食べさせる、これは食育ではありません。
学校給食でも同じで、子どもから人気のないメニューは食べずに残してしまうから、喜んで食べてもらえる人気メニューを出そうというのは、それこそ食育が教育と見られていない証拠です。
これが他の勉強だったらどうでしょう。
子どもたちに算数の授業が人気がないからといって、子どもたちが喜ぶ体育の授業を増やすでしょうか。
「いいじゃないか、食べものぐらい、好きなものを食べさせてあげれば」
それは食育を軽視しているから出てくる言葉です。
子どもたちが嫌がることでも、教育ならばやらないといけません。
どうすれば子どもたちが興味を持って楽しみながら算数を勉強できるかを必死に考えるべきなのです。
僕自身、子どものころは非常に好き嫌いが多かったですが、大学で栄養学を勉強してからそれが一気に変わりました。
食べものにはそれぞれ別の栄養素が入っており、それが複雑に身体の中で作用しあって生命活動を支えていることを科学的に知った時に、はじめていろんなものを好き嫌いなく食べる意味を理解できました。
食のことを栄養面だけでなく、文化の面や生産の面など、多面的に伝えることで子どもたちがもっと食べものに興味を持つようになります。
その中で基本にすべきは和食であり、外国の料理を取り上げたり牛乳のカルシウムについて教えるのもいいかもしれませんが、それよりもまずは出汁の引き方やごはんの炊き方を教えないといけないのです。
今の食育の問題点は食育自体の優先度が低いことと、中身が体系化されておらず、まとまりがなくなっていることがあると思います。
まとめ
食育の重要性は、教育の現場で長年子どもと接してきた方ほどよく認識されています。
以前も僕のファスティングセミナーに、何十年も学習塾を経営されてきて、最近食育に関する団体を立ち上げて理事をされている方がいらしたことがあります。
その方がなぜ学習塾から食育に移ったのか。
もうおわかりかと思いますが、子どもたちが昔と変わってしまったからです。
「ここ最近子どもたちが明らかにおかしくなった。じっと座っていられない。すぐに疲れて集中できない。なぜだろうと思っていろいろと調べると食が変わったことが原因だという結論に行き着いた。そこで気付いたんです。勉強を教える前に食を変えないといけないと」
僕はその方のお話をなるほどと思って聞いていました。
国が食育を法律にしてしまうぐらい、この国の食育は急務です。
僕も、一人の栄養士として少しでも子どもを持つ親御さんに食育の重要性を伝えていきたいと思います。
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