【 書評 】世にも恐ろしい「糖質制限食ダイエット」(幕内秀夫)
こんにちは。管理栄養士の圓尾(まるお)です。
今回は、最近読んだ本の感想を書きます。
紹介するのはこちらの本。
この本を読み終わったまず最初の感想は
「しまった。なぜこの本をもっと早く読んでおかなかったんだ」
でした。
というのも、僕はこの著者の幕内秀夫先生の食に対する考えには、いつも納得させられていて勉強させてもらっていたのですが、
Amazonのレビュー欄を見ると、ひどい書き込みが多く、その書き込みを目にしたことがこの本を手に取るのが遅れたことに少なからず影響したように思います。
ですが、結論から書くと、この本は「糖質制限」の危険性についてわかりやすく書かれた最高の一冊でした。
ということで、張り切って紹介していきたいと思います。
世にも恐ろしい「糖質制限食ダイエット」
糖質制限食ダイエットは、もともとは糖尿病の治療食の一つとして考案されたものです。
糖尿病の治療食というと、カロリー計算が必須で、これが手間がかかり、実践するのが難しいとされていましたが、
糖質制限食は食事中の糖質だけを避ければ良く、それ以外は何を食べても良いというような画期的な食事療法でした。
それがいつの間にか、「ダイエットとしても良い」というふうに変わり、実践者はどんどんと増え、一世を風靡するまでになったのです。
精製糖質と複合糖質を一緒にするな
ここ五〇年で日本人の米の消費量はほぼ半減しています。一方で、それと反比例するかのように、肥満や糖尿病、生活習慣病の人が増えてきているのです。糖質が病気の根源だとしたら、これはおかしいではありませんか。
(P. 58より)
一言で「糖質」といっても大きく二つの種類に分かれます。
米や麦などの穀類、イモ類、果物などの食べものに一部として含まれる糖質(複合糖質)と、白砂糖のようなほとんど100%が糖質でできている(精製糖質)ような糖質です。
たとえばお米(玄米)は100g中に糖質は35.6gで、他にもビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素を含んでいます。
それが白砂糖では99.2%が糖質。精製されているので、糖質の塊となっているのです。
しかし、いわゆる糖質制限ダイエットでは、これらの糖質を同一のものとして扱っており、一律に糖質を制限しています。
たしかに、砂糖などの精製糖質のとりすぎは問題ですが、複合糖質まで制限することは食事のバランスを著しく狂わせることになるのです。
そもそも縄文人は肉を食べていない
糖質制限を推奨する人たちは、
「そもそも昔は人間は穀類を食べていなかった。肉を主食とし、農耕をはじめたことがすべての誤りだった」
と主張しています。
「日本人はお米を食べてきたというが、それはここ1000〜2000年のことで、人類の長い歴史から見るとごく最近のことに過ぎず、体が適応していない」
という意見もあります。
これには僕も「まあその考え方も一理あるかもな」と思っていたのですが、本書を読んでその主張の間違いに気付きました。
幕内先生が二〇年以上考古学を研究している知人に縄文人の食生活を尋ねたところ、次のような答えが返ってきます。
「考古学を研究している人で、縄文人の主食が肉だったと主張している人はほとんどいませんよ」
(P. 97)
そう、最近の研究でこれまでの考古学の常識を覆す事実が明らかになっており、
狩猟採集の時代と言われていた頃も、私たちの祖先はかなりの糖質をとっていたことが判明したのです。
たしかに当時は農耕技術がなかったので、米や麦は食べていませんでしたが、
ドングリなどの木の実を食べており、その中にはたくさんの糖質が含まれています。
つまり、縄文人は肉ばかり食べていたのというのはウソで、彼らもちゃんと糖質をとってエネルギー源として利用していたのです。
糖質制限食は「酒飲みの道楽健康法」
経済性を考えると、現実的には、精製された食用油を大量にとることでエネルギーの埋め合わせをすることになるでしょう。あらゆる食事に油が入ってくるわけです。
(P. 128)
糖質制限ダイエットでは、糖質の代わりにたんぱく質と脂質からエネルギーを摂取する必要があります。
なんせ、平均的な日本人は一日の摂取エネルギーの約60%を糖質からとっているため、実に1000kcal以上が糖質由来なのです。
糖質制限では、それをたんぱく質や脂質で置き換えることになります。
そうなると、確実に食費が増えます。
ごはんは安くてエネルギー源になるので、主食の地位にいます。
それを肉や魚で置き換えるとなると、どう考えても余計にお金がかかります。
そんな中、食費を安く済ませようとすると、質が良くない肉をたくさん食べることにもなります。
生の肉だけでなく、肉の加工品には食品添加物が使われているものがほとんどなので、それも心配です。
さらに脂質の面に話を移すと、脂質の摂取量が増えることで、今問題となっているトランス脂肪酸の摂取量も増えるでしょう。
このように、優秀なエネルギー源である糖質を制限すると、まるでドミノ倒しのように次々と栄養バランスが崩れ、ガタガタになってしまいます。
糖質制限食はあくまで治療食である
食事法や健康法の論争をするときに、「科学的根拠」「エビデンス」ということばを好む人がよくいます。しかし、科学的に証明でいるくらいなら苦労はありません。科学的に証明できないから、それぞれ経験をもとにして最善の方法を考えているのです。
(P. 174)
この本のAmazonのレビュー欄の批判意見を見ると、「科学的根拠なしに書いている」という記述が目立ちます。
これは栄養学を勉強したことがない人か、栄養学の特性を理解していない人の意見だと思います。
人間の体というのは非常に複雑で、
同じ栄養素をとっても、人種やDNA、心の状態、他の生活習慣などの影響を受けるので、他の科学実験のようにスパンと気持よく結果が出てハッキリとした事実が判明するわけではないのです。
一つの研究結果が出たと思ったら、それを覆すような研究が出るなんてことをずっと繰り返しています。
科学的根拠に固執するというのは、一生それに振り回されて生きるということです。
糖質制限食に関しては、この本にも書かれているように、体に悪影響があるのかないのかは、ハッキリとわかっていません。
安全を主張する人の意見にも「今のところは」という枕詞が必ずついているのです。
かつて、とある植物油がコレステロール値を下げるということでトクホとして売られていました。
しかし、その後、その物質に発がん性の疑いがあるということで販売中止になっています。
「この油はこういう実験をしたところ、これだけの人のコレステロール値がこれだけ下がりました」
と言えば、科学的根拠で物事を判断する人には魅力的に映ることでしょう。
ですが、僕からすると「そんな今まで使われてきた油とは違う変なものを体の中に入れるのは怖い」と考え、すぐにそれを食生活にとりいれようとは考えません。
果たして、どちらの考え方の方が健康になれるのでしょうか。
僕は何も、科学的根拠がどうでも良いと言っているのではありません。
ただ、そこに固執すると大事な原理原則が見えなくなることがあるから危険なのです。
そして出てくる結論もいつもと同じ。
「日本人には和食が一番」だということです。
古くは瑞穂(みずほ)の国と呼ばれ、この土地の気候でよく育つ稲。
昔は税金も給料もお米でした。
僕が子供の頃、おばあちゃんから「ごはん粒を一粒でも残すと目が潰れるで」と怒られました。
僕たち日本人はずっとずっとお米を大事にしてきたのです。
糖質制限食でお米を食べないことを勧めるのは、まさに日本の文化破壊にも繋がります。
ただでさえ、お米の消費量は下がっているのに、このままではその減少に拍車がかかります。
そして現段階でハッキリとした安全性が証明されていない以上、安易な考えで糖質制限に手を出すと、手痛いしっぺ返しを食らうことにもなりかねません。
最後に補足として、糖尿病で苦しまれている方や、体重コントロールのために糖質のとりすぎに気をつけている方などを批判しているわけではありませんので、悪しからず。
「糖質とらなければ簡単に痩せられるらしいよ」という風潮に警鐘を鳴らしたいというのが僕の思いですので、ご理解いただけると幸いです。
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