書評 「不自然な食べものはいらない」 内海聡・野口勲・岡本よりたか
なぜ現代にはこれほど病気や体・心の不調を訴える人が多いのか。
「食生活の変化が大きな原因だ」というのはよく言われていますが、では具体的にどういった変化が問題かと聞くと「カロリー(糖質)のとり過ぎ」「ビタミン、ミネラルなどの不足」といった答えが返ってきます。
より詳しく勉強している人だと、それに加えて「食品添加物」や「トランス脂肪酸」などがあがってきます。
しかし、実は現代に渦巻く食の問題はもっともっとさかのぼって考える必要があります。
普段とっている栄養素を、摂取するもとである野菜や果物、穀物、肉などは人が栽培、飼育したものであり、それらがどうやって作られているのか、そしてその世界に今どういったことが起きているのかを知らないと上辺の栄養学だけ学んでも役に立たないのです。
この本のテーマは「農業」で、「種(作物の)」と「次世代」について、医師の内海先生と、農家・環境活動家の野口氏、岡本氏の三人による鼎談の様子がまとめられています。
それでは早速紹介していきましょう。
不自然な食べものはいらない
あなたも毎日食べている!遺伝子組み換え食品
GMO作物の全体の輸入量はすでに2000万トンを超えています。ちなみに、日本国内で、お米の生産量は約800万トンなので、これはお米の2倍を超える量です。
(本書 P.21)
つまり直接ではないんだけれど、ほとんどの日本人は毎日のようにGMO食品をたくさん食べているでしょう。
(本書 P.31)
遺伝子組み換え(GMO)作物とは、アメリカで開発されたもので、遺伝子的な操作により、農家が楽に作物を作れるように改変した種のこと。
たとえば、虫が食わないように、作物自体に殺虫成分を持たせたりしています。
この技術により、農家は虫食いを防いだり、雑草を取る手間が省けたりするなどの恩恵を受けています。
気になる安全性ですが、危険性が指摘されており、「ガン」「アレルギー」「不妊」がGMO食品3大障害と言われています。
アメリカでGMO技術が認可される際に安全性の試験は行われているのですが、あまりにもずさんとしか言いようがありません。逆に危険性を証明するような研究結果もその後発表されています(詳しくは本書参照)。
「遺伝子組み換え食品」と聞くと「どこか遠い海の向こうの国のこと」と他人事のように捉えている日本人は多いですが、まったくそんなことはなく、日本人もバリバリ毎日遺伝子組み換え食品を食べています。
ちょっと詳しい人だと「日本には遺伝子組み換え作物を使っている食品に対しての表示義務があるのでは?」と思うかもしれませんが、そんなものはあってないようなもので、うまい具合に法律が作られており、気づかない形で遺伝子組み換え食品が使われています。
長くなるので詳述は避けますが、詳しく知りたいという方はぜひ本書を読んでみてください。
普段食べている野菜は、ヘンな種から作られている
現在の店頭に並んでいるカブやダイコンは、ほとんどが「F1種」と呼ばれる「交配種」です。
F1種の種は、次世代からは親と同じ野菜はできずに姿形がムチャクチャな異品種ばかりになってしまいます。このため、F1は一代限りで、農家は毎年、新しい種を買わないと同じ野菜を栽培できません。
(本書 P.64)
今僕たちが普通にスーパーで買う野菜は”F1種”という種から育てられた野菜です。
昔からある種である”固定種(在来種)”は生育速度も大きさもバラバラになるため、効率的に栽培、出荷するのに向いていません。
そのため、F1種という人工的に掛け合わされた種が使われているのですが、このF1種は固定種より味が落ちます。なので昔の野菜を知っている高齢者の方は「今の野菜は美味しくなくなった」と言います。
また、F1種は自分で種を作る能力を失った”不妊の種”がほとんどで、そんな種から育った野菜を食べることで人間の不妊にもつながっているのではないかと本書では語られています。
私たち消費者にできることとは
消費者のNOという声が、生産者、お店、外食産業といった食べ物にかかわる人々を動かしていきます。
(本書 P.154)
本書では遺伝子組み換え食品や不妊の種であるF1種がどれだけ広まって食品市場を席巻しているかが現場に精通しているプロたちの言葉からリアルに伝わってきます。
問題の根源は、一般の人がこういった今起きている問題を知らないこと。
一般の人どころか、栄養の専門家であるはずの栄養士ですらほとんど知りません。さらには、農家さんですら知らない人が多いと本書では語られています。
「知らないのだから好き勝手やっても構わない」という気持ちが大企業にあるのだと思います。
知識のある人からしたら「こんなもの食べられるか!」というものでも知識のない人たちが「安い」「便利」と喜んで買ってくれるのでドカドカ利益が出て、それを使ってさらに体に悪い食べ物を開発していくという悪循環。
それでいて国は「予防医療を推進する!」なんて言っているのだから、もはや喜劇です。
しかし、希望はあります。それは消費者である我々が声をあげること。
実際にアメリカでは消費者の「NO」という声により、トランス脂肪酸の規制が作られたり、大手食品メーカー、チェーン店が添加物の使用を控えるなどのアクションを起こしています。
日本人も少しはアメリカ人の爪の垢でも煎じて飲むべきです。
遺伝子組み換えや種となると、難しそうというイメージを抱きがちですが、本書は三人の専門家による対談方式なので、とても読みやすく、それぞれの人柄も伝わってきて一気に読めました。
こういった方面にまったく知識がない人が最初に手に取る一冊としてオススメです。
最近は勉強になるだけでなく、新たな気づきを得たり、心を動かされる良書に出会うことが多い。この本も今年読んだ中でトップ3に入るぐらいのいい本でした。
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