書評 「小麦は食べるな!」 ウィリアム・デイビス(白澤卓二[訳])
すっかり糖質制限という考え方が広まり、糖質は悪者扱いされるようになりました。
この本も、一見するとそういう糖質制限の食事に関する本に見えますが、そうではありません。
本書は糖質の中でも「小麦」に焦点を当て、いかに小麦が体に悪いかという一点について書かれた一冊です。
著者はアメリカの医師のウィリアム氏で、この本は全米・カナダで130万部を突破する大ベストセラーになっています。
もうとにかく最初から最後まで小麦を集中攻撃です。
アメリカン・ジョークをふんだんに織り込みながら(省略すれば半分で書けたのでは?笑)、小麦をボロカスに言っています。
しかし、彼の話は決して根拠の無いものではなく、科学的な根拠と、ウィリアム氏の患者の治療実績に根ざしたものでした。
それでは紹介していきましょう。
小麦は食べるな!
今食べられている小麦は、かつての小麦ではない
現代の小麦はわたしたちの祖先が日々のパンのために粉にしていた穀物とは違います。自然環境では何世紀もの間にわずかしか進化しなかった小麦は、ここ50年間に農業科学によって劇的に変化を遂げました。
本書 P.31
より病原菌や日照りに強い種。より早く、より多くの収穫量が得られる種。
そんな理想の品種を求め、人類は小麦の品種改良を進めてきました。
さらには遺伝子組み換え(GM)技術が開発され、それまで以上に思いのままの理想的な小麦を作ることができるようになったのです。
しかし、その結果、グルテン含量とその構造の変化、酵素やタンパク質の変化など、小麦の性質に思わぬ影響が出てきてしまいました。
小麦はドラッグと同じぐらい危険?
小麦は消化されてモルヒネ様化合物が生じ、脳のオピオイド受容体と結合します。その結果、報酬として穏やかな多幸感が生まれます。その作用が遮断されたり、エクソルフィンを生み出す食品を摂取しなかったりすると、ひどく不快な禁断症状を覚える人もいます。
本書 P. 71
小麦は太るだけでなく、ドラッグのヘロインのように依存性を高めると筆者は指摘しています。
一見すると理解できないことのように思えますが、国立衛生研究所の研究で、小麦の主要蛋白のグルテンを疑似消化させたものをラットに投与したところ、それは血液脳関門を通りぬけ、脳に達し、さらにはモルヒネ受容体と結びつくということがわかりました。
この小麦のグルテンを消化してできた物質のことを”エクソルフィン”と呼んでいます。
このエクソルフィンの作用により、小麦は食欲増進剤として働くことが書かれています。
隠れセリアック病の可能性
セリアック病に対する医師の理解が足りない上に、この病気には独特な症状(たとえば、腸症状ではなく、倦怠感や偏頭痛)が多いため、症状が出てから診断が下されるまでに平均で11年かかっています。そのため、セリアック病の診断がつくころには、長年の栄養吸収力低下によって深刻な栄養失調状態になっている可能性があります。
本書 P.93
セリアック病とは、小麦に対するアレルギーのようなもので、小腸の細胞が破壊され、栄養が吸収できなくなってしまう病気です。アメリカでは人口の約1%が持っているといいます。
そしてウィリアム氏は正式にセリアック病と診断されなくても、いわゆる”隠れセリアック病”のような人がたくさんいて、それがいろいろな病気や体の不調に繋がっていると指摘しています。
日本でも患者が多い過敏性腸症候群(IBS)もセリアック病の軽度の症状だとしています。
どんな食事をとればいいか
まずは小麦を断つことが第一ステップです。第二ステップは、小麦を経った分のわずかなカロリーを埋めるための適切な商品を見つけることです。
本書 P.237
本書で勧められている食事は、当然予想されるように「小麦を断つこと」です。
それは、小麦がたとえ健康そうなイメージのある全粒粉であっても関係ありません。
そしてウィリアム氏は、米も小麦ほどではないがとらない方が良いとし、最終的には糖質をとらないような食生活を推奨しています。
ウィリアム氏の主張は一貫しています。
「健康になりたかったらとにかく小麦を避けろ」。
1ページ目からラストまで、小麦のいいところは一つも出てきません。
そして、「小麦を減らす」のではなく、「完全に食事から除去しよう」と呼びかけている点もハッキリとした主張です。
あまりにも小麦の危険性をうたっているため、おそらく読み終わった後は誰しも小麦を食べることに躊躇すると思います。
なかなかショッキングな内容でしたが、現代の小麦が昔の小麦とは違い、遺伝子的な操作を受けて性質が変わってしまっているということは印象に残りました。
遺伝子組み換えの影響は小麦だけにとどまらず、考えると恐ろしいものがあります。
わりに専門的な用語も多い本なので、栄養学の面の知識のある方にはオススメです。
文章の端々から、アメリカ国民の健康意識の高さが伺えるようなところもおもしろかったです。
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